思考

線の声

8世紀後半に日本最古の和歌集の「万葉集」が
中国の文字である漢字を用いて記録されてから約100年後、
日本最初の勅撰和歌集の「古今和歌集」は
日本独自の文字「かな」で編集されました。
このとき日本の文化は唐様から和様へと大きく変化し、
「かな」のもつ凛としたしなやかな美しさは日本の美の原点となりました。

漢字を極限まで崩した新しい文字「かな」は
愛する人や移りゆく季節へのおもいに添う情緒の文字であり、
その細い曲線には作者の声が漂う
やまとうたそのものの文字でした。

私は、「古今和歌集」のうたのなかから
人や自然に対するよろこびを詠んだうたを多首選んで書き、
その紙を何枚も重ね合わせ
当時の歌人たちの豊かな情感と時を紙の上にとどめてきました。

古の歌人の言葉の意味を超えたおもいや声が
重層的な調べとなって絡みながら立ちのぼります。
ほとんど文字が見えないくらい奥に潜んだ「かな」の線からも
千年の昔の声や気配が聴こえます。
線の声

古事記かたり

これまで、古今和歌集を中心に「やまとうた」を書き連ね重ね合わせてきました。
今回は日本で文字が湯気を立てていた時代に着目し、
文字がまだおぼろだった頃の記述「古事記」の全文を漢字と仮名で書き重ねました。
偶然にも今年は古事記が書かれて1300年。
八百萬の神々の聲(古事記)が渦巻く会場で制作を続行し、
7月28日の最終完成を目指します。(2012.7)